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大阪地方裁判所 昭和56年(ワ)6193号 判決 1983年2月25日

原告

竹藤美代子

ほか二名

被告

飯田和行

ほか一名

主文

1  被告らは各自、原告竹藤美代子に対し金三五八万二一〇四円、原告竹藤幸子及び原告竹藤利子に対し各金一七九万一〇五二円並びに右各金員に対する昭和五六年四月三〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は、これを三分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告らの負担とする。

4  この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一申立

一  原告ら

1  被告らは各自、原告竹藤美代子(以下原告美代子という)に対し金一〇六九万八一〇七円、原告竹藤幸子(以下原告幸子という)及び原告竹藤利子(以下原告利子という)に対し各金五三四万九〇五三円並びに右各金員に対する昭和五六年四月三〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  被告ら

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五六年四月三〇日午前〇時五五分ころ

(二) 場所 大東市南津の辺町二二番地二六先路上

(三) 事故車両

(1) 普通乗用自動車(大阪五七ぬ二〇一三、以下飯田車という)

右運転者 被告飯田和行(以下被告飯田という)

(2) 普通貨物自動車(大阪四五め七九一四、以下協和車という)

右運転者 佐伯昭(以下佐伯という)

(3) 普通乗用自動車(大阪五八め六三三六、以下竹藤車という)

右運転者 竹藤光丸(以下光丸という)

(四) 態様

光丸は竹藤車を運転して走行中、進行方向左車線前方を迷走している協和車を認めた。協和車は迷走して道路左端の跨道橋側壁に激突し、その反動の勢いで併行進行中の竹藤車に衝突した。協和車はその後さらにそのまま横すべり迷走し、センターラインをまたいだところで停止した。光丸は竹藤車から降りて停止した協和車のそばへ行きその運転席の横に立つていたところ、対向車線を進行してきた飯田車が光丸を跳ねとばして、協和車に衝突し、協和車は竹藤車に衝突した。

2  帰責事由

(一) 被告飯田

被告飯田は飯田車を所有して自己のために運行の用に供しているものであり、本件事故について前方不注視及び酒気帯び運転の過失があるから、自賠法三条の運行供用者責任並びに民法七〇九条及び七一九条の不法行為責任を負う。

(二) 被告協和道路株式会社(以下被告会社という)

被告会社は協和車を所有し、その従業員である佐伯をして運転業務に従事させていたものであるところ、佐伯は協和車を酒酔い居眠り運転して迷走させたうえ危険場所へ停止させた過失があるから、被告会社は自賠法三条の運行供用者責任、民法七一五条の使用者責任及び同法七一九条の共同不法行為責任を負う。

3  権利侵害

光丸は本件事故により死亡した。

4  相続

原告美代子は光丸の妻、原告幸子は長女、原告利子は二女であり、光丸の死亡により相続が開始し、その権利義務一切を承継したが、各原告の相続分は順次二分の一、四分の一、四分の一である。

5  光丸の損害額

(一) 逸失利益 二三四五万五一〇五円

(1) 年収四六〇万三九一五円

(2) 年齢六〇歳

就労可能年数九年(平均余命一八年余の半分)

右九年の新ホフマン係数七・二七八

(3) 生活費控除割合三〇パーセント(一家の支柱)

(4) 計算 四六〇万三九一五円×七・二七八×〇・七=二三四五万五一〇五円

(二) 慰藉料 一五〇〇万円

(三) 葬祭費 七〇万円

(四) 物損(竹藤車の破損) 二四万一一一〇円

(五) 弁護士費用 二〇〇万円

(六) 合計 四一三九万六二一五円

6  填補 二〇〇〇万円

前記5の損害賠償内金として二〇〇〇万円の支払を受けた。

7  結論

よつて、原告らは、右損害残金二一三九万六二一五円を相続分に応じて按分し、被告ら各自に対し、原告美代子は右二分の一にあたる金一〇六九万八一〇七円、原告幸子及び原告利子はそれぞれ四分の一にあたる金五三四万九〇五三円並びに右各金員に対する本件事故の日である昭和五六年四月三〇日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

(被告飯田)

1 請求原因1(一)ないし(三)は認め、(四)は争う。

2 同2(一)のうち被告飯田が飯田車を所有していることは認め、その余は争う。

3 同3は認める。

4 同4は認める。

5 同5は争う。

6 同6は認める。

(被告会社)

1 請求原因1(一)、(二)は認め、(三)のうち飯田車と竹藤車との間で本件事故が発生したことは認め、その余は争い、(四)は争う。

2 同2(二)のうち被告会社が協和車を所有し、佐伯が被告会社の従業員であることは認め、その余は争う。

3 同3は認める。

4 同4は認める。

5 同5は争う。

6 同6は認める。

三  被告らの主張

(被告飯田)

1 光丸の過失

本件事故の直前、竹藤車が本件現場道路南行中央線寄りの車線上で前部をやや南南東に向けて停止し、このとき協和車が車首をやや南南東に向けて中央線をまたぐ状態で停止し、光丸が自車を降りて協和車の右(西側)反対車線上に佇立していたことはいずれも明白な事実である。

ところで、本件事故現場において、協和車が中央線をまたぐ状態で停止したことだけでも、これと北行車両との衝突事故を招来誘発する危険があることが十二分に予想できる状態であつたところに加えて、現場は雨で路面状況も見通しも共に悪い状態であつたのであるから、なおさら、光丸としては、仮に右佐伯に用向きがあつたとしても、いつ誘発され発生するやも知れない二次事故からの危険を避けるべく、自分自身の安全に注意して自ら危険な地点に立ち入らないようにする等適切な対処をすべきであつたにも拘らず、最も危険な地点、即ち協和車右側ドア付近に接する北行対向車線内に身をおいた過失はこれを免れ得ない。本件事故による光丸の被害は、同人の右過失にも起因することが明らかである。

しかも光丸は、協和車が警照灯に衝突した結果前記中央線をまたいで停止したものであることを現認していた筈であり、このような事故が更に別の事故を誘発することもあることについては十分わかつていた筈であるのに、あえて対向車線に立ち入つたことは、二四年の経験を持つ職業運転者としても極めて不注意な挙動であつたということができるのであつて、本件損害賠償額の算定に際しては、光丸の前記過失が斟酌されるべきである。

2 損益相殺

(一) 原告美代子は、光丸の死亡により、左の通り労働者災害補償保険金の給付を現に受け、又は将来給付を受けることになつている。

(1) 労災遺族年金(将来給付)

原告美代子が同年金の三年余分を超える損害賠償金を既に受領しているので同年金支給事由発生日(災害発生日である昭和五六年四月三〇日)から三年間はその支給が停止されているが、右は昭和五九年五月一日から年額一二一万三九〇〇円宛支給され、これが原告美代子の現在年齢五四歳(昭和三年一〇月一二日生)を基準とした昭和五五年簡易生命表による平均余命年数二七年(小数点以下切捨)を加えた八一歳まで毎年給付されるとみることができる。

(2) 遺族特別支給金三〇〇万円(昭和五六年八月三一日既給付)

(3) 遺族特別年金

昭和五六年五月一日から年額一五万六七〇〇円(三ケ月当り三万九一七五円)。

(イ) 右のうち昭和五七年一〇月三一日までの一八ケ月分につき三ケ月当り三万九一七五円による計二三万五〇五〇円が既に支給済みである。

(ロ) 昭和五七年一一月一日以降分については、前記同様二七年後の原告美代子八一歳時まで支給されるとみられる(将来給付)。

よつて右(1)のホフマン式による法定利率年五分の単利年金現価一八八四万六二八三円(一二一万三九〇〇円×〔二七年の係数一六・八〇四四-支給開始までの一・三六年の係数一・二七九=一五・五二五四〕)、同(2)の三〇〇万円、同(3)(イ)の二三万五〇五〇円、同(3)(ロ)の前記単利年金現価二六三万三二四九円(一五万六七〇〇円×二七年の係数一六・八〇四四)の合計二四七一万四五八二円が原告美代子の損害から損益相殺されるべきである。

(二) 労働者災害補償保険法による遺族年金及び遺族特別年金の前記将来給付分を損益相殺すべき理由は次の通りである。すなわち、最高裁判決(昭和五二年五月二七日、昭和五二年一〇月二五日)は、保険者代位請求権の発生の有無の観点から、既給付分については損害から控除するのが将来給付分については控除を要しないものとする。しかし、もしそうだとすると、本件の場合前記(一)(1)の事故発生日から三年を経過した日に支給が開始される遺族年金及び同(一)(3)(ロ)の遺族特別年金のそれぞれにつき、これらの給付が損害賠償と二重払になる不合理が生じ、且つこの不合理を調整する現実の方法がなく、著しく衡平を失することが明らかとなる。そこで、保険者代位請求権の発生の有無の観点からすればあるいは右最高裁判決と同一の結論になり得るかも知れないけれども、右衡平をはかるための損益相殺の考え方からすれば、右給付が将来給付にかかるものであるからといつて、これを損益相殺により控除しない理由がないからである。

(被告会社)

1 被告会社の無責

被告会社は、何ら損害賠償責任を負担するものではない。

けだし光丸の死亡と佐伯の自損事故(同人が協和車を運転し、野崎跨線橋の左側壁先端に自車前部を衝突させ、その反動で右前方に暴走し、道路中央線から一部車体をはみ出し停止するに至つたもの)との間には条件的因果関係がたとえ認められることがあつても、損害賠償責任の前提となるべき相当因果関係を明らかに欠いている。原告らにおいては、被告会社の責任を認めさせるためか、飯田車が停車中の協和車に衝突した反動で協和車の左側面と竹藤車右側面が衝突した以前に、恰かも佐伯車が跨線橋に衝突したはずみで後行若しくは並行進行中の竹藤車に衝突したかの如く主張するが、虚構もはなはだしい。本件事故前協和車は、歩道寄りの車線を南進し、跨線橋に衝突した後右に方向転換し停止したものである。かかる場合、協和車が後行若しくは並行進行中の竹藤車に衝突したとすれば、その竹藤車の損傷は車両左側面に生ずる筈であり、その際に右側面に損傷ができるが如くサーカスもどきのことはありえない。竹藤車の右側面の損傷は、飯田車と佐伯車の衝突の反動で発生したもので、その他後部、左側面には何ら損傷が無い。

かかる自損事故発生後、協和車及びその運転者佐伯の動静を確認の為か対向車線に入り、飯田車にはね飛ばされるに至つた光丸の死亡についてまでその賠償責任を負うものではない。現に刑事事件においても被告飯田のみが業務上過失致死罪で処断されており、佐伯は、自損事故に対する道路交通法違反についてのみ問責されているにすぎない。

また、竹藤車の物損についても、協和車は停車中のところ、飯田車より衝突され、その反動で右後方に押しやられた結果、竹藤車右側面に接触したにすぎず、その責はすべて被告飯田にあり、被告会社には責任はない。

2 填補

光丸の遺族に対しては、労災保険より次の通りの金員が支払われている。

(一) 三〇〇万円

昭和五六年八月三一日支払 遺族特別支給金

(二) 二三万五〇五〇円

一回当り三万九一七五円の遺族特別年金が年四回(支給月、二月・五月・八月・一一月)、最終弁論期日迄に合計五回支払われている。

四  被告らの主張に対する答弁

いずれも争う。

なお、被告ら主張のように、遺族特別支給金及び遺族特別年金の一部が支給ずみであることは認めるが、右のごとき労災保険の労働福祉事業に基く支給金は、その事業目的からして、損害賠償額から控除すべきものではない。そして、将来の年金が控除の対象でないことは昭和五二年一〇月二五日最高裁(三小)判決等により既に確定しており、今や当然というべきである。

第三証拠〔略〕

理由

一  事故の発生

請求原因1(一)、(二)は当事者間に争いがない。

成立に争いのない甲第七ないし第一六号証、乙第三ないし第七号証、第一〇ないし第一三号証、竹藤車の写真であることに争いのない検甲第一号証の一ないし六、弁論の全趣旨によれば、左の各事実が認められる。

1  本件事故現場は、南北に通ずる国道一七〇号線の野崎跨線橋の北側昇降口付近で、国道はセンターラインをはさんで合計幅員一三・六メートルの四車線(南行北行とも各二車線)の道路であり、右跨線橋の東西にはそれぞれ側壁を隔てて幅員約七メートル、五・五メートルの側道が併行し、その北側昇降口の北側で右国道に通じており、国道南行車線と東側側道との接する分岐点部分の側壁北端には南行車両に対する点滅式の警戒灯及びキングライトが設置されていること、右国道はアスフアルト舗装の交通量の多い幹線道路であり、右現場付近では直線になつており、みとおしもよく、制限速度は時速五〇キロメートルで駐車禁止規制があり、跨線橋の南から北への下り勾配は一〇〇分の四であること、事故当時の天候は雨で路面は湿潤し、通行車両の少なかつたこと

2  佐伯は協和車を運転し、右国道南行車線を北から南へ進行して事故現場付近にさしかかつたが、運転開始前に長時間にわたつてかなりの飲酒をした影響によりいねむり状態に陥り、そのまま進行したため、前記跨線橋北側昇降口で、国道南行車線と東側側道との分岐点に設置された点滅式警戒灯及びキングライト方向に同車を逸走させるもこれに気付かず、同車を右キングライトに激突させてその反動で国道センターライン方向に逸走させ、その結果、同車は跨線橋にその北側入口から約七メートル進入した地点で、車首を南南東やや南行車線方向に向け、センターラインをまたいで車体右半分以上を北行センターライン寄り車線にはみ出した状態で停止したこと

3  光丸は竹藤車を運転し、右国道南行車線のセンターライン寄り車線を北から南へ進行して事故現場手前にさしかかつた際、前記協和車の逸走停止を直近に目撃して、停止した同車の東側にほぼ平行して南行車線のセンターライン寄り車線上に急停止し、自車から降車し、協和車の西側運転席横の対向北行車線センターライン寄り車線上に佇立していたところ、右車線を南から北へ進行してきた飯田車の右側面が激突し、協和車の右側面との間にはさまれて北方南行車線上に投げ出されたこと

4  被告飯田は飯田車を運転し、右国道北行車線のセンターライン寄り車線を南から北へ時速約六〇キロメートルで進行し、事故現場付近にさしかかつたが、当時降雨により進路前方は見えにくい状態で、前照灯を下向きにしてその照射範囲の前方約一五ないし二〇メートルの路面を見ることのみに気をとられて進行していたところ、事故現場において自車線前方約一七メートルに前記2のとおり協和車が停止し、その横に前記3のとおり竹藤車が停止しているのを発見し、とつさにハンドルを左に切るとともに急制動の措置をとつたものの間にあわず、自車右側面を協和車の西側に佇立していた光丸及び協和車の右側面に激突させ、光丸は両車の間にはさまれたうえ北方南行車線上に投げ出され、協和車は右衝突の反動で東側南行車線上に停止していた竹藤車方向に車尾を振り、協和車の左後角と竹藤車の右側面前部が衝突し、飯田車は右激突後さらに北方へ約三七・六メートル逸走して北行車線歩道寄り車線上に車首をほぼ東に向けて停止したこと

以上のとおり認められ、甲第二号証、乙第一号証のうち右認定に反する部分は採用し難く、他に右認定を左右する証拠はない。

二  帰責事由

1  被告飯田

被告飯田が飯田車を所有していることは当事者間に争いがなく、他に特段の主張立証もないので、被告飯田は飯田車の運行供用者というべきである。

本件事故の状況は前記一認定のとおりであるところ、右事実によれば、被告飯田は当時夜間降雨中で前方の見とおしが困難で路面も湿潤してすべりやすい状態であつたから、安全な速度で進行するとともに前方左右の注視を厳にして事故の発生を未然に防止すべき注意義務があつたのに、これを怠り、漫然時速約六〇キロメートルで進行し、自車進路前方約一五ないし二〇メートルの路面を見ることにのみ注意を奪われ、その前方に対する注視を怠つた過失があるものというべきである。

2  被告会社

被告会社が協和車を所有していることは当事者間に争いがなく、他に特段の主張立証もないので、被告会社は協和車の運行供用者というべきである。

本件事故の状況は前記一認定のとおりであるところ、右事実によれば、竹藤車の停止していた位置は南行車線のセンターライン寄り車線上であるが、何故光丸がこのように道路中央付近の危険な位置に停止したうえ降車して佇立していたのか案ずるに、成立に争いのない甲第一〇、第一六号証、乙第七号証によれば、本件事故現場に北方から車両を運転し接近し、右事故のうち飯田車が光丸及び協和車に衝突するのを現場北方約一二六メートルで目撃した下農保は、右目撃後自車を事故現場北方の跨線橋昇降口の南行車線わきに停車し、警察に事故の通報をしていることが認められ、右認定のように、通常はなれた位置から事故を目撃した全くの第三者ならば右下農のように自車は安全な位置に停止させたうえ、まず警察に通報し、自らは幹線道路の中央に佇立する等という危険な行為に及ぶことはないものと考えられる。従つて、光丸の前記行動については、南行車線のセンターライン寄り車線を南進していた竹藤車の直前で、協和車が前記一2認定のように逸走してキングライトに激突後竹藤車の前方直近を左から右に横切つたのを認めて、衝突を避けるため光丸が急停止の措置をとり、停止後そのまま降車して無謀な運転をした協和車の運転者に抗議し、あるいは右運転者が動かないので様子を見に行つたものと推認することによつて事態をより合理的に説明することができるものと思料する。

以上の次第で、本件事故は佐伯の飲酒いねむり運転による協和車の逸走停止が発端となつて、竹藤車が急停止を余儀なくされ、光丸が降車し佇立しているところへ飯田車が突入してきたもので、佐伯の飲酒いねむり運転による協和車の逸走停止と光丸の死亡及び竹藤車の破損との間に事実上の因果関係が存するのは明白であるところ、被告会社は、協和車の逸送停止は自損事故であるに止まり、本件事故はもつぱら被告飯田の過失によるものであつて、自損事故と光丸の死亡及び竹藤車の破損との間に相当因果関係はなく、被告会社の賠償責任を負わない旨主張する。

前記一2認定事実によれば、佐伯には飲酒のうえその影響により眠気をもよおし正常な運転行為ができない状態になつたのであるから、ただちに運転を停止し事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるのに、これを怠り漫然運転を継続していねむり状態に陥つた過失があるものといえる。

本件では右過失による協和車の逸走停止のうち、前記飯田の過失と後記光丸の過失があつて、光丸の死亡と竹藤車の破損という結果に至つたものであるため、右佐伯の過失をもつて右結果について帰責関係を認めるのが相当かどうかが問題となるけれども、あえて危険な行為に及び、しかも、その危険が容易に他の危険を誘発し他者に損害を与えることが予測できる以上、その予測できる危険が通常の因果の流れに従つて具体化した場合には、その結果すべてについて当初の危険行為に及んだ者に帰責せしむるのが相当と解されるところ、飲酒いねむり運転は自動車の物理的危険性からみてそれ自体極めて危険な行為であるうえ、協和車が走行していたのは四車線の国道幹線道路であり、自車の走行状態、衝突、停止位置等の具合によつては他車両や通行人等にいかなる危害を加え、あるいは、他の事故の誘発原因になるといつた事態を招くことは佐伯においても容易に予測し得たはずである。そして、協和車のように同一方向へ進行中の他車両をかすめて逸走して道路中央付近に停止した場合、右他車両が急停止し、その運転手がただちに降車して抗議し、あるいは、様子をみるためにやつてくることや、対向車の運転手が進路前方の傷害となつた停止車両等を発見するのが遅れて進行して来るような事態は、それぞれ他者の過失を介在するとはいえ、因果の流れとして不自然ではなく、通常あり得ることであつて、これによる佇立者光丸の死亡や付近停止車両竹藤車の破損は当初予測された危険の具体化といい得る。

従つて、佐伯は本件事故の結果について帰責さるべきものと認めるのが相当である。

佐伯が被告会社の従業員であることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一三号証、弁論の全趣旨によれば、当時被告会社は佐伯をして協和車の運転業務に従事させていたものと認められる。

三  権利侵害

請求原因3は当事者間に争いがない。

四  相続

請求原因4は当事者間に争いがない。

五  光丸の損害額

1  逸失利益 一六七三万〇二三三円

成立に争いのない甲第六号証の一、二、乙第八号証、証人西井利夫の証言により成立の認められる甲第四号証の一ないし四、同証言、弁論の全趣旨によれば、光丸は大正九年七月二八日生の本件事故当時六〇歳の男子で、当時巴タクシー株式会社(以下巴タクシーという)にタクシー運転手として勤務し、昭和五五年の年間給与は三二八万三九一五円であつたこと、光丸は右タクシー運転手として稼働するかたわら、昭和五五年七月二日以降愛知運輸倉庫株式会社(以下愛知運輸という)に嘱託渉外係として勤務し、一か月一一万円程度の給与の支給を受けていたこと、もつとも、巴タクシーでは従業員が他に就職することを就業規則で禁止しており、光丸は右会社に内緒で愛知運輸に勤務していたこと、ところで、巴タクシーでは労働協約によりタクシー運転手の定年を六〇歳と定め、特例により二年これを延長することがあり、それを過ぎると事務職員等他の職種で再雇用することもあつて、再雇用の際の給与はその職種に応じた初任給となり運転手としての給与額は維持できない態勢になつていること、光丸には看護婦として働いている妻原告美代子(事故当時五二歳)、長女原告幸子(同二八歳)、二女原告利子(同二二歳)がいたこと、以上のとおり認められ、右認定を左右する証拠はない。

右認定の光丸の巴タクシーでの給与額、その年齢、右会社の定年とその後の雇用形態、愛知運輸での就業が巴タクシー側に発覚すれば早晩退職を求められるであろう状況などを総合考慮すると、原告ら主張の光丸の年収額四六〇万三九一五円(巴タクシーと愛知運輸の各給与額の合算近似値)を光丸が今後も維持し得たものとは到底認め難いところであり、光丸の逸失利益算出の前提となる年収額としては、巴タクシーでの事故前年度の年間給与額三二八万三九一五円程度と認めるのが相当である。

次に、前記認定の光丸の年齢、職業等に照らすと、昭和五五年簡易生命表によれば六〇歳の男子の平均余命は一八・二七年であるから、光丸の就労可能年数は今後九年間と認めるのが相当であり、また、前記認定の光丸の給与額、年齢、家族状況に加えるに、妻が稼働している点をもあわせ考慮すると、生活費控除割合は三〇パーセントと認めるのが相当である。

従つて、光丸の逸失利益を求めるに、右年収三二八万三九一五円に就労可能年数九年に対応する新ホフマン係数七・二七八を乗じ、これから生活費控除割合三〇パーセントを控除すると、一六七三万〇二三三円と認められる。

2  慰藉料 一二〇〇万円

本件事故における被告飯田及び佐伯の各過失内容、死亡という結果の重大性、光丸の年齢、家族状況などを総合考慮すると、慰藉料としては一二〇〇万円と認めるのが相当である。

3  葬祭費 五〇万円

光丸の年齢、職業、家族状況等に鑑みると、その葬祭費としては五〇万円と認めるのが相当である。

4  物損 二四万一一一〇円

成立に争いのない甲第一二号証、乙第五号証、竹藤車の写真であることに争いのない検甲第一号証の一ないし六、証人西井利夫の証言により成立の認められる甲第五号証、同証言、弁論の全趣旨によれば、光丸の所有する竹藤車は本件事故により協和車との衝突のため右前フエンダー、右ドアの凹損、前部バンパー、ボンネツトの擦過等の破損を生じ、その修理費用として二四万一一一〇円を要したことが認められ、右認定を左右する証拠はない。

5  合計 二九四七万一三四三円

六  過失相殺

本件事故の状況は前記一、二認定のとおりであるところ、右事実によれば、光丸は協和車との衝突を避けるため急停車したのち、後続車ないし対向車との衝突等の事故の波及を防止するため、ただちに自車を左側に寄せ、降車しても他車の進路を防害することのないよう道路端に佇立しているか、あるいは、協和車の運転席のところへ行くにしても他の走行車両の動向に厳に注意しなければならなかつたものといい得る。しかるに、光丸はこれを怠り、漫然急停止した位置に竹藤車を停止させたまま降車し、協和車の西側運転席寄りに佇立していた過失により本件事故の被害にあつたものと認められる。

そこで、光丸の過失を本件損害賠償額の算定にあたつて斟酌するに、本件事故現場道路状況、事故態様、光丸・被告飯田・佐伯の各過失内容等の諸事情を考慮すると、前記損害額から一〇パーセントを減ずるのが相当と認める。

従つて、賠償すべき額は二六五二万四二〇八円となる。

七  填補 二〇〇〇万円

請求原因6は当事者間に争いがない。

なお、被告飯田はその主張2のとおり、被告会社はその主張2のとおりそれぞれ主張するので検討する。

成立に争いのない乙第一四ないし第一六号証によれば、本件事故による光丸の死亡について、その妻である原告美代子に対し、労災保険より遺族年金、遺族特別支給金、遺族特別年金が支給されることになリ、遺族年金は年金額の三年余分を超える損害賠償受領のため三年間支給停止され、その解除は昭和五九年五月一日からでその支払開始は同年八月期払であり、遺族特別支給金は三〇〇万円、遺族特別年金は昭和五六年五月一日から三か月毎年四回(二月、五月、八月、一一月)支払で一回当り支払額三万九一七五円であることが認められ、右認定を左右する証拠はないところ、遺族特別支給金三〇〇万円及び遺族特別年金のうち二三万五〇五〇円が支払ずみであることは当事者間に争いがない。

そこで、まず右遺族特別支給金及び遺族特別年金についてみるに、これらの労働者災害補償保険法一二条の八に規定する保険給付ではなく、同法二三条に規定する労災保険の適用事業に係る労働者及びその遺族の福祉の増進を図るための労働福祉事業として給付されるものであつて、いわゆる損害の填補を目的とするものでないのであるから、右給付があつたからといつてこれを前記損害額から控除することは許されないものと解すべきである。

次に、右遺族年金については、将来その給付が予定されているとしても、いまだ現実の給付はない以上、原告らがその損害賠償請求権の行使を制限されるいわれはなく、右将来の給付額を損害額から控除することを要しないと解するのが相当である。

従つて、被告らの右各主張はいずれも失当として採用できない。

八  弁護士費用

本訴の内容、審理の経過、認容額等を総合考慮すると、弁護士費用としては、原告美代子について三二万円、原告幸子及び原告利子について各一六万円と認めるのが相当である。

九  結論

よつて、原告らの本訴請求は、前記六の賠償すべき額と同七の填補額との差額六五二万四二〇八円を原告らの各相続分に応じて按分した額(原告美代子三二六万二一〇四円、原告幸子及び原告利子各一六三万一〇五二円)に同八の各弁護士費用を加算した額となるから、被告ら各自に対し、原告美代子は金三五八万二一〇四円、原告幸子及び原告利子は各金一七九万一〇五二円並びに右各金員に対する本件事故の日である昭和五六年四月三〇日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由ありとしてこれを認容し、その余は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 矢延正平)

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